外国人支援例:「警察密着24時」並みの通訳

こんにちは。

NPOリンクトゥミャンマーを立ち上げ、団体を運営しております理事長の深山沙衣子と申します。

 

いつもNPOリンクトゥミャンマーの活動にご支援くださるみなさま、クラウドファンディングでミャンマーコーヒーやミャンマーマスクをご購入くださる皆様、本当にありがとうございます。皆様のご支援がどのように活用されているかを今回はご紹介したいと思います。現実に驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、現実は現実なので、ご興味のある方はお付き合いください。

 

 

ついこの間のことですが、夕方に当会事務所に電話がありました。

「●×警察署です。これから、とある男性をDV容疑で逮捕します。被害者女性のミャンマー人の方のシェルターを知りませんか?」

 

DV被害者のシェルターは地方自治体から経由して入るものですが、入居者の携帯電話持ち込み禁止、ほか様々なルールがあり、実際に外国人がシェルターを使うのはハードルがあります。

 

というか、ここで「なぜ警察が区役所に電話しない?」と感じたわたくしは、

 

「すでにその方のお住まいの自治体にシェルターについて相談しましたか?」

 

と尋ねたところ

 

「ハイ。ただ日本語があまりできない方ですと、シェルターでの生活が難しく、外国人専用の支援施設があればと思い、電話してみました」

 

と警察官は言うわけです。

 

「ご存じでしょうけど、外国人がシェルターで生活するのは大変ですから、知人友人の外国人の家に身を寄せることになります。その方は、同胞の知り合いはご近所にいないんですか?」

 

「いないって本人は言っています。これから取り調べを開始しますが、警察で契約している通訳者がいつ来るかわからなくて、今は通訳アプリでやり取りしているんですよ。取り調べで通訳が必要な時間は夜9時以降になります」

 

「その時間に通訳者が来ますか?」

 

「通訳者の派遣を待っています」

 

答えになっていない答えを聞く。

夜、万が一何か必要な時のために、携帯電話番号を教えて電話を電話を切ったのが運の尽き、夜21時半に案の定、携帯電話に電話がかかってまいりました。

 

「●×警察署の△▲です。今取り調べをしておりますが、ちょっとらちが明かないところがございまして、希望的観測でご連絡いたしました」

 

希望的観測???

 

「警察で契約している通訳者が到着しておりませんで(←いきなりの依頼なら当然、とツッコミたい)あのー、ミャンマー語、分かりますか?」

 

「警察の通訳契約の料金をいただけるんですか??」

 

警察は通常、県警察本部単位で通訳者契約をしており、時間給が明確に決められています。長時間労働すると、まあまあいい給与になります。

 

「契約していないんで難しいですよね(←オイ!!)」

 

言語って、簡単に通訳できると思っている方が多くて、この警察官もしかりですけど、しかし通訳作業には、事前準備や事前心構えが必要です。私は通訳ではなく通訳を派遣したりコーディネート、フォローする側の人間ですが、どんな人かわからない、会ったことのない方の通訳をいきなり電話でするっていうのは、実は無茶ぶり以外の何物でもない、という現実があるのですが。

 

「無賃労働ですよね~」

 

とわたくしが電話口につぶやきますと、

 

「ですから、希望的観測で、もし、通訳していただけたら、大変ありがたい、ということであります」

 

そうでありますか……希望的観測、という言葉の使い方が違うんじゃないでしょうか……と思いつつ、ここで警察が通訳者の到着を待ったら夜が明けるな……という現実がありありと浮かんでまいります。

せめて、NPOに今度寄付しますから!位の気持ちを表明していただきたかった……。

 

警察はTV番組の警察密着24時のごとく、24時間で対応するんでしょうけど、それは「シフト制」という人道的な労働制度の下で動いているわけで、当会のような弱小NPOは警察のように24時間営業をやり続けるのもね~、だってスタッフが少ないんですから。

 

「………」

もはやいろんな状況(NPO財源、警察の私たちに対する「ミャンマー情報センター24時間OPENやってよ、ねえ」的な態度、知人がいないと主張するミャンマー人女性の証言の信ぴょう性のなさ、目の前で子供3人を育てている自分←ふつうは夜、子供を寝かしつけたり宿題を見たりするもんですよ、などなど)が渦巻く中で言葉が出ないわたくしに、また「希望的観測で電話しました!」という多分誤った日本語を使う警察官の声を聴き、もう考えるのが面倒になって、

 

「分かりました。」

 

と隣にいるミャンマー人夫(NPO通訳)と、警察官と、被害者ミャンマー人女性との会話をすることになりました。(繰り返しますが、通訳タダ提供!!)

 

「実はですね、この方、事情があって家に帰れないわけです」

 

「はあ」

 

「知人友人の家に泊まれないか、ミャンマー語で聞いていただけませんか?」

 

当会通訳がミャンマー語で聞くと、恋愛関係のこじれから家に帰れないなどなど話す女性、それはいいのですが、ミャンマー人が数千人も住むエリアで、来日して何年も経っている方が、日本に知人がいないというのは、ちょっと違うのでは、という話になりますと、

 

「だって私、一万円しかもってませんから。被害者ですから」

 

一見、DV被害者として最もらしい言い分です。しかし、そこで当会通訳は聞きました。

 

「仕事は何をしているの?妹さん(知らない年下の女性に対して、ミャンマー人はこう言う)のビザだったら、週5回以上は働いているでしょ。××に金を3万円くらい払えば宿泊できるミャンマー人の家があるでしょ。今、お金がないなら、働いている会社に電話して宿泊代を建て替えてもらうよ」

 

すると警察署にいるミャンマー人から出た言葉が、

 

「それは会社に迷惑がかかるんじゃないですか?」(←今夜のオイ2回目)

 

「ねえ、妹よ、警察24時のテレビで日本の警察はなんでも助けてくれるって思ったかもしれないけど、警察はあなたの宿泊費を出せないと言っているんだよ。もしあなたが次の住む場所を探せないなら、警察から入管に問い合わせて、所属機関に連絡してもらうから」

 

というミャンマー人同士のやり取りがあり、わたくしから、警察官に入管の彼女の情報を取り寄せて所属機関(外国人労働者が働く場所)に問い合わせたら、宿泊所はありますから、と申し上げ、電話は終了しました。

 

この警察通訳の事象のポイントを列挙します。

 

1.警察は契約した通訳者で通訳することになっていますが、緊急時は間に合わないことがあります。異文化の方々を受け入れている日本において、ごくごく一般の日本人(ここでは警察官、と支援団体の私たち)に、様々な不便や負担がかかっています。

 

2.このミャンマー人女性は技能実習生が終了したあとの在留資格でした。技能実習や正社員でない身分の方で、在日年数が浅い方は、ビザ上で所属、管理している所属機関がなくなったり、所属機関からの管理がゆるくなったりして、このように困る方や犯罪にかかわる方が出てきているような印象を受けます。とくに技能実習後の特定活動ビザの方は、派遣会社に転職するケースが多く、派遣会社の管理がいい加減だと、様々な困難ケースとなって当会に電話がかかってきます。

 

3.DV被害者に対して可哀そうな対応ではないか、と思われる読者の方もいるかもしれませんが、彼女のこれまでの在日経験から、自分で不動産を契約したことがなく、外国人の不動産契約の大変さはわからず、特に技能実習生は受け入れ機関が寮やアパートを用意しますから、「技能実習生終了後も、日本では、誰かが家を用意してくれる(できたらタダで)」という、これこそ希望的観測を持っていたのです。だから知人がいないという証言を繰り返し、警察が家を用意するのを待っていました。

 

このミャンマー人の希望的観測を、一般の日本人が読解するのは至難の業です。ミャンマー人のことは、ミャンマー人しか読解できない部分があります。これを読解し、かつ「所属機関に連絡しますよ(←せっかく日本に来て、ビザの取り直しはもったいないという暗喩)」を伝えれば、おそらく彼女は自力で住処を探すようになるはずです。

 

 

4.当会ご支援の皆様からのご寄付から、通訳費用やわたくしの支援対応費を捻出するしかない、という社会の状況がございます。

 

 

 

まとめ>

「先進国で育った日本人がやりたくない仕事が確実に存在しています。よって、それら仕事をやって下さる移民は、すでに存在していますし、日本社会での共存を図るべきです」

 

という労働市場の課題と、

 

「一方で、学歴要件のない技能実習生などのビザ(現在の日本社会で雇用の隙間を埋めてくれている存在)の方々が増えると、さまざまな困難や問題が出てきます。これら問題をゼロにはできませんが、ゼロに近づけるための社会制度設計は必要になっています」

 

と感じざるを得ない社会問題が、面前に存在しているのです。

 

今回のケースは、所属機関や監理団体がなくなった元・技能実習生が、自立するにあたって、なかなか自立できずに生じた問題でした。

さて、どのようにしたら、問題は解決していけるでしょうか?

技能実習制度や入管改革含め、社会全体で、なぜ外国人が日本にいるのか、どうやったらうまく共存できるかを考える方が一人でも増えることを願っています。

 

日本社会に、移民問題にさまざなご意見があるかと思いますが、こういうケースに対応している、という例をご紹介したく、長々とご報告を書きました。

 

 

2022年10月1日

みやま さえこ