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労働に関する相談支援のSDGs達成に向けた意義 ―人権保護とインフラ修繕の人手不足の観点を通して―

 

労働に関する相談支援のSDGs達成に向けた意義

―人権保護とインフラ修繕の人手不足の観点を通して―

井上明香里 NPOリンクトゥミャンマー・インターン

 

NPOリンクトゥミャンマーは、定住支援として在日ミャンマー人の相談支援を行ってきましたが、中には労働に関する相談もありました。特に20203月頃からは、新型コロナウイルスの影響で経済が停滞し、より深刻な労働相談が寄せられるようになりました。相談内容は、雇い止め、雇い止め時の退職届に「自己都合退職」と書かせる派遣会社、休業手当の申請などです。ここから、NPOの手助けなしでは外国人が自分で手続きできず、不正がまかり通ってしまうという現状が垣間見え、外国人労働者の人権が十分に守られていないという印象を受けます。また、日本社会で全員が「外国人労働者は必要不可欠である」という認識を持っているとは言えません。一方、SDGsのゴール8では、外国人などの不安定な雇用の労働者を含め、すべての労働者の権利保護が明記されています。SDGsの達成に向けて、NPOリンクトゥミャンマーはいかに外国人労働者と向き合っていくべきでしょうか。本記事では、日本経済新聞社が20201125日~28日にかけて実施した、日経オンライン展示場「SDGs Week Online」からの学びを通じて、労働者の人権保護とインフラ修繕の人手不足の観点から、この問いについて考察した。

 

SDGs Week Online」とは

SDGs Week Online」では、「エコプロOnline」「社会インフラテック Online」「気候変動・災害対策Biz Online」の3展示会が同時開催されました。それぞれの展示場では、約150もの出展者ブースが設けられ、持続可能な社会に向けての取り組みが紹介されました。また、主催者セミナーが会期中(1125日~28日)にライブ配信され、環境や社会インフラ、災害対策について大学教授から企業方まで様々な登壇者の方々が、SDGsの達成に向けた取り組みを紹介しました。

 

労働者の人権保護とSDGsの達成

17の主催者セミナーのうち「SDGsまでラスト10年! 気候危機・人・コロナ 国際情勢を把握してビジネスの本気を見せるのは今だ!」というテーマで行われたセミナーでは、国連グローバル・コンパクトという、「人権」・「労働」・「環境」・「腐敗防止」の4分野・10原則を軸にしたイニシアチブに沿って、3つの企業・団体がご登壇されました。中でも、人権についてのご登壇において、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの庄司良子氏は、SDGs17のゴール・169のターゲットのうち、9割以上が人権に関するものであると述べており、SDGsの達成には人権問題への取り組みが重要であることが分かりました。

また、庄司氏は、国連グローバル・コンパクトと関係の深いDNV GLを始めとした多くの組織の国際的な協力により作成された、Uniting Business in The Decade of Action 2020というレポートで、 90%の企業が企業方針に人権を組み込んでおり、72%の企業がグローバル・コンパクト10原則を支持していることが報告されていると指摘し、ビジネスにおいて人権意識が高まっていると説明していました。そのようなビジネスの傾向があるなか、2011年国連人権理事会で決議された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、202010月に外務省が『ビジネスと人権』に関する行動計画(20202025)を公表したと庄司氏は述べ、日本においてもビジネスにおける人権が重視されるようになってきたことについて言及しました。

セミナーを受けて、外務省が発表した行動計画についてさらに調べたところ、分野別の行動計画の中には、外国人労働者や外国人技能実習生等を含む、労働者の権利の保護・尊重が含まれていると分かりました。よって、ビジネスにおける人権は、日本でも重要性が高まっています。

NPOリンクトゥミャンマーで定住支援の一環として行っている、在日ミャンマー人の労働に関する相談支援は、ビジネスにおける人権尊重に対するサポートであるといえると思います。在日ミャンマー人への労働に関する相談支援を行うことは、在日外国人労働者の権利の保護・尊重につながり、さらには国別行動計画を実行に移し、SDGsの達成に大きく貢献します。定住支援を通じた人権保護の重要性を改めて認識しました。

 

インフラの人手不足と外国人労働者の重要性

また、「ウィズコロナで進むインフラ維持管理の新技術導入」というセミナーでは、インフラ修復の必要性と人手不足、そしてその課題を解決するための新技術が紹介されました。なかでも、前半のインフラ修復の必要性と人手不足についてのお話からは、いかにインフラの修復が重要な急務であり、人手不足ゆえにどれほど作業に遅れが生じてしまっているのかを、写真とデータのグラフをもとに理解できました。

登壇した日経クロステックの浅野裕一氏によると、インフラ点検が本格的に始まるきっかけとなったのは、2012年に起きた山梨県の笹子トンネル天井板落下事故です。この事故では、走行中の車が巻き込まれ、9名が亡くなり、世間のインフラ老朽化に対する問題意識が高まりました。これを受けて、政府は5年に1回の点検を義務化しましたが、結果として分かったことは、早急に修復しなければならないインフラの数が膨大であるということです。橋だけでも早急に対応するべきものは、7万件にも昇ります。そうしたインフラの修繕は全く追いついておらず、橋を例に挙げるとわずか22%しか修繕着手できていないそうです。

また、浅野氏によると、インフラの損傷が軽度な段階で修復を行った方が、コストがかからず、インフラそのものも長持ちします。しかし、緊急のインフラ修繕も間に合っていないので、こうした理想的なインフラ修繕はもちろん追いついておらず、着手率は1割にも満たない状況です。

以上のようにインフラ修繕は全く間に合っていないのが現状ですが、浅野氏は原因として人手不足を挙げました。建設投資額が微増する一方で、就業者数は横ばいであり、さらには就業者の高齢化が問題となっています。セミナーでは、こうした現状の課題に対する解決策となる新技術について言及していました。

新技術は徐々に実験的な導入が進んでいるようですが、普及までには時間がかかり、一部作業の効率化は進むものの、やはり機械で補える部分には限りがあるといった印象を受けました。現状人手が足りないにも関わらず、高齢化が進むとなると、新技術の導入が進んだとしても、建設業界での人手不足はしばらく続くと思います。その間、人手不足を補う存在として重要であるのが、外国人労働者だと思います。

日本で建設業に従事する外国人労働者について調べたところ、令和2年の国土交通省による「建設業界の担い手の確保・育成について」という資料では、建設業界での人手不足を補うために、特定技能制度により外国人労働者の受け入れを推進する流れが説明されていました。資料によると、建設業界で活躍する外国人労働者は年々増加しており、2019年度には約9.3万人にまで増えました。資料のデータによると、たしかに建設業界の就労者数が全体で約499万人であることを考えると外国人労働者は2%にも満たないです。しかし、建設業界の就労者のうち29歳以下が1割にも満たないというデータを踏まえると、若くて体力のある外国人労働者の存在は貴重であり、今後も需要が高まるでしょう。以上のように、現状では、日本の非常にひっ迫したインフラ整備を外国人就労者が一部支えており、今後も高齢化に伴う人手不足のなかで重要性が高まっていくと思われます。

 

最後に

ここまでSDGs Week Onlineのセミナーのうち2つを取り上げて、SDGsと外国人労働者のつながり、そしてSDGsNPOリンクトゥミャンマーのつながりについて述べてきました。セミナーを通して学んだことは、SDGsという大きな目標と外国人労働者の保護には強いつながりがあること、そして私たちの安全・安心な生活は外国人労働者に支えられていることです。

 

最近、東京都調布市での道路陥没ニュースが話題になりましたが、先に述べたようにインフラ整備が進んでいない状況を踏まえると、「日本の安全なインフラ」のイメージは崩壊寸前であるのかもしれません。しかしながら、インフラの安全性が危機的状況にあることを知っている人は少なく、したがってインフラ整備に従事している外国人労働者の重要性を十分に理解している人も少ないのが現状であると思います。インフラ整備の課題があることを専門家以外も知る機会があれば、社会全体で外国人労働者が必要であるという認識が広がっていくのではないでしょうか。それが外国人労働者の人権保護の重要性を認識することにつながり、その結果SDGsという大きな目標の達成に近づくことができると思います。